バカみたいよね。

 そんなの分かってたんだけど。

 止まらなかったよ。


「……なぁ、本当にいいのか?」

「え? 何よ今さら」

「今だからだよ。今ならまだ引き返せる」

「冗談言わないで。私はちゃんと考えて決めたんだから。あなたと結婚するって」

「僕と結婚してくれるなら全力で頑張るし、幸せにする。けど、ヤエコは本当に僕と結婚して後悔しないのか?」

「……信じられない?」

「正直、な」


 当然といえば、当然かもしれない。

 今までずっと大切な友人としてしか見ていなかった彼を、これから男性として愛そうとするには少し無理がある。

 なら逆に友人として恋人として、愛そうって決めた。これは私のエゴだ。

 彼は私に友人としての愛じゃなく、恋人として……伴侶としての愛だけを求めてると分かっているのに。


「これからずーっと一緒に暮らすんだって考えてから決めたのよ? 大丈夫だって!」

「ヤエコ……」


 彼はまだ不安げに表情を固くしていたけれど、もう何も言わなかった。

 ごめんね、と小さく胸の内で呟いた。

 私がまだあの人を忘れられずにいるから、プロポーズを受け入れた今でもあなたはその幸せを実感できずにいる。

 分かってる。だから、今は謝るしかない。


 私が好きになったあの人の心の中にはずっと消えない女の人がいて。

 それを知ってて好きになった。

 いつか振り向かせるって思ってたんだけど、結局敵わなくて撃沈。

 自暴自棄になってた私をそっと掬いあげてくれたのが、今隣を歩いてる彼。

 恩は感じてるけど、それだけで結婚という大事な事を決めるほど私はバカじゃない。……と思う。

 いつか深く愛せると思ってるから、あなたと同じ道を歩いてく事を選んだ。

 それもアリでしょう?


 大丈夫、私はちゃんとあなたと一緒に幸せになる。


「手、つなご!」

「へ?」

「普通は花嫁がマリッジブルーになるもんよ。花婿は余裕を持ってなきゃ!」

「……だな。ごめん」

「分かればよし。さ、早く帰ろ! お腹空いた!」

「……うん、帰ろう。僕らの家に」


*To next*