いつもくっついて歩いてた。

 その頃はただ離れたくなくて。

 理由なんかいらなかった。


「っしゃ! このゲームも俺らがいただきっ」

「悪いね、みんな~」


 仲のいい奴らで出かけたボーリング。

 男4人に女4人で、ゲーム毎にくじでペアを替えてるが俺は毎回マミと一緒になった。

 一体、どこまで腐れ縁なんだか……。

 まあ女子の中でも一番話しやすいしノリがいいから俺としちゃ文句も何もない。

 3ゲーム終了後、画面に表示された俺の愛称・リッキーの文字に、マミと二人でガッツポーズだ。


「何だよお前ら強すぎだろ!」

「手加減しろ! 賭け金全部持ってくんじゃねぇー!!」

「ハハッ。ワリィな、俺が運動神経が抜群なせいで全部持ってっちまって~」

「うぜぇぇぇ。ほらさっさとペア替えすんぞ!」

「おぉ、臨むところだ!」

「え~っまだやんの~?」

「そろそろ切り上げてカラオケ行こーよー」


 やんややんやと盛り上がっていると、シャツの胸ポケットに入れていたケータイが鳴った。

 みんながペア替えを始めてるのを横目に、俺はケータイを開いた。


『ヤエコちゃんきてる』


 絵文字も句読点もない淡泊なメールは、お袋からのものだった。

 内容を見た瞬間、俺はボーリングだの何だのが頭から吹っ飛んだ。


「ワリィ! 俺ちょっと急用! 帰るわ!」

「えっ? ちょ、リッキー! どうしたの?」

「マミ、ほんっとーにワリィ! 埋め合わせに今度何かおごるからよ、じゃな!!」

「えぇぇぇっ! リッキー!!」


 マミの困ったような声に申し訳なく思ったけど、今はこのメールの内容の方が大事だった。

 俺は息が切れるのも忘れるくらい全力で家を目指して疾走した――。





「ヤエ姉!」

「あ……リキヤくん? うわぁ、ちょっと見ないうちに大きくなったね!」


 ドタバタとリビングへ足を踏み入れれば、ソファーに座っているヤエ姉。

 ――それから、知らない男が一人。


「もう高校生だっけ? カッコよくなってビックリしちゃったー。3年振りくらいになるかなぁ」


 くすくすと楽しげに笑うヤエ姉の隣で、男はただただ戸惑ってヤエ姉を見つめてた。

 ひょろりとしてて、どこにでもいそうな普通の男。

 誰だよコイツ…。


「っと、ごめんごめん。リキヤくん、今日は報告に来たの」

「報……告……?」

「そう。私ね、この人と結婚するの」

「……………」

「大学の同級生でね、式は向こうでやるんだけど、実家に挨拶してきた帰りで。おばさんやリキヤくんにも小さい時からお世話になってるし、挨拶していこうと思ってお邪魔したの」


 何を言われたのか分からないまま俺は立ち尽くした。

 結婚する。ヤエ姉が。この男と。

 何だそれ。冗談だろ。


「式にはリキヤくんも来てね? 招待状はまた送るからさ」

「……………」

「リキヤくん?」

「………行かね」

「えっ?」


 ショックを受けた顔をしたヤエ姉を見てると、むしょうに腹が立った。

 昔っからずっと一緒にいて、少しも気づかなかったのかよ?

 そんなに俺はガキだったのかよ?

 悔しくて俺は荒々しく自分の部屋へと逃げた。


 何年も何年も、ヤエ姉が上京してからもずっと好きだったのに。

 こんなのってないだろ。

 俺も高校卒業したらヤエ姉を追いかけて上京しようって決めてたのに。

 何で待ってくれなかったんだよ。


 身勝手だと分かっていた。

 それでも俺は、ヤエ姉に怒りをぶつける事でしか息し続ける事が出来なかった。

 ガキで自分本位でも恋は恋だった。


 俺がやっとそれを受け入れられるようになったのは、それから何年も後の事だった。


*To next*