気になる。

 どうしてか。

 目が勝手にあの人を追う。


「ナツキ? どしたの?」

「えっ…あぁ、ごめん!」

「本屋行きたいの?」

「ち、違う違う! ただぼんやりしてただけ!」

「ふーん」


 あははは……とちょっと無理に笑った。

 するとマミは何故かニヤリとしてあたしの手を引っ張る。

 そして向かう先は、本屋。

 ってちょっとちょっとちょっとー!!


「え、なにっ、何で?!」

「カッコいい人でもいたんでしょ! 教えてさ!」

「違うってば!」


 否定するものの、マミはあたしの言葉に耳を貸さず…結局本屋へINしてしまった。

 こんなに近くであの人を見た事がないあたしはどぎまぎして、不自然に目が泳ぐ。


「で、どこどこ?」

「だから違うってば!」

「ふぅ~ん?」


 明らかにバレてるのは百も承知。

 でも、それが“誰か”まではバレちゃいけない。

 マミにバレたら面倒臭い事になる。

 レジの方だけは、見ないようにしなきゃ…。

 あ! それより、マミの意識を違う方向に向けさせればいいんだ!


「マミ、見て見て! マミの好きな小説の新刊が出てるっ」

「そんな嘘が通じるもんか! あれが出るのは三ヶ月後……ってあぁ! 外伝が出てるぅぅぅっ!」


 キラキラと目を輝かせながらマミは小説を手にした。

 出まかせだったけど、何だろう。奇跡?

 神はあたしに味方にしたってやつ?

 うっわー! 超助かった!!

 ほっとして視線を変えると、レジの方だった。

 思わず一旦視線を戻して、マミが新刊に夢中になっているのを確認してから再度レジの方を見る。

 大学生くらい……だろうか。

 あたしとは違ってとても物静かそうな人だった。

 メガネを掛けているところが何ともまた、本屋の店員らしい。

 何となく気になりだしたのはつい最近の事で、学校にいてもあの人の事を考える日が続いてる。

 名前も知らない人なのに、どうしてこんなに気になるんだろう…。

 自分でもおかしいと思う。

 でも、この感情はちゃんと知ってる。

 ここまで胸が締めつけられる思いをした事はないけど、本能で感じてる。


 ――恋、ってやつなんだ。


*To next*