自分でも分かっていた。

 努力なんて言葉、俺には似合わないと。

 だから始めから諦めてた。


「なーに見てんの、マサキ?」

「……や。別に」

「嘘だ~! あ、可愛い子がいたんでしょ? どこどこっ?」

「そんなんじゃねぇって。ほら、帰んぞ」

「何よぅ。教えてくれたっていいじゃない」

「うるせぇな、あんましつこいと置いてく!」

「あはは。ごめんごめん、謝るから置いてかないでー」


 下校時間。俺は昔からそうしていた通り、幼なじみのカヨと帰る。

 ご近所同士だった俺らは、学校でも同じクラスに割り当てられる事が多く、自然と一緒に帰るのが普通になっていた。

 とは言うものの、高校に入ってからはお互い下校時間は合わないし、一緒に帰る事も減ってきた。


「あ、そうそう聞いて! 隣のクラスのね…」


 隣で楽しげに話し始めたカヨを横目に、俺はさっき見ていた彼女を思い出す。

 気づけば最近よく目で追ってる気がする。

 少しカールのかかったの髪は触ると気持ち良さそうで、よく友人達とはしゃいでいる。

 何が面白いのか全く見当がつかないが、常に満面の笑顔で…。

 見ていて飽きないと思う。


「ってちょっと、マサキ聞いてる?」

「……へ? あ、ああ」

「絶対聞いてなかったでしょ。有り得ない」

「んだよ。お前ののろけ話なんか聞いてられっかよ、つまんね」

「はあ?! のろけ話って、どこが!」

「アイツの話だろ? 最近仲良しの」

「それはそうだけど、別にそんな関係じゃないしっ」

「へーへー、さっさとくっついて兄離れしろよー」

「ウザッ。いつからあたしの兄貴になったわけ、アンタ」


 本気でウザそうな顔をしているカヨ。

 何か面倒臭くなったので、この際コイツは放置。

 俺は明後日の方向を見ながら、再び彼女の事を考え始める。

 そういえば、最近たまにぼーっとしてる気がする。

 何か悩み事でもあるんだろうか。

 ……まぁ俺が心配したところで、何も変わりゃしねぇけど。

 それでも、彼女には笑顔が似合うから、早くその気がかりがなくなるといい。


「ねぇ。ねぇってば。マサキ!!」

「うおぉっ! ビックリさせんなよ!」

「そっちがぼーっとしてるから悪いんでしょ」

「俺のせいか?! ……俺のせいか」

「全くもう。うち、着いたんだけど」

「おおぅ、いつの間に」


 気づけば、俺達はカヨの家の前にいた。

 ここから2分歩いた先が俺の家だ。


「そのままぼーっとして家通り過ぎないでよ?」

「んな事すっかボケー」

「人が親切に言ってあげれば…。もう知らないっ」


 カヨは機嫌を損ねて俺に背を向けた。

 それからサクサクと自分ちへ入ろうとして、くるりと振り返る。


「また明日ね」


 いつもの笑顔で手を振り、玄関のドアを閉めた。

 俺は少しその場に立ち尽くし、再び歩き始める。


 ――本当に俺は、努力って言葉が似合わない。


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