じーっと私を見ながらコソコソと話している気がする。

なんなんだろう、すごく気になる。

思わず俯いてしまう。



「............涼、俺と藍ちゃん車にいるから」

「あん?」

「お礼は涼が持ってきてー」

「んで俺が................あー、分かった」



面倒くさそうにしていた不思議さんだけど、健二さんの言葉の意味を察したのか「しゃあねえな」と言いながら車を降りた。


でもなにを察したんだろ。


バタンと閉められたドアを眺めながらボーっと考えた。



「ねえ、藍ちゃん」



カタ、と車が揺れた。


何事かと健二さんのほうを向くと、運転席から私の隣へと移動していた。


わわわわわわわわ。


横に座ると健二さんから微かに香水の香りがした。大人の男性の香りだった。


中学生がよくしているシーブリーズなんかの香りじゃなくて、もっと値段が高そうなもの。



「はは、耳赤いよ」

「~~っ」



サラッと私の髪の毛を退けながら、耳に優しく触れる。

どこに視線をやればいいのか分からなくてあちこちにさ迷わせる。


緊張しすぎで手が震えてきた。


健二さんの手が私の耳から離れたとき、気づかれないように息を吐いた。



「俺さ、この前彼女と別れたんだ」



未練のない、清々しい声色で語る健二さん。

私は「えっ....」と思わず口から出てしまい、微妙な心境になった。


彼女がいたのは分かる。そういう見た目をしてるし、逆にいないというほうが変。



「でさ、丁度フラれた日に涼を迎えに行ったんだよ。いつも迎えに行ってるやつが急に予定入ったとかで」



私は健二さんの話しを黙って聞く。



「そんで、涼が来るまでぼーっとしてると藍ちゃんが通りがかったんだよね」

「私、ですか」

「うん」



話が全く見えなくてずっと健二さんのほうを向いているけれど、一向にこっちを見てくれない。


明後日のほうを向いている。