きた、きたよ。


注射してからの1、2秒が。


車内はシーンと静まり返って、気まずいことこの上ない。


でも執事さんと同じ空間にいるってことで汗が
出そうなほど緊張してる。


不良さんは足組みしてスマホをいじってるし、執事さんは運転してるし...。
私が話しかけたところで「は?」とか言われそうで。


ギリギリ窓側まで寄って小さく縮こまり膝の上に拳をのせ、ぎゅっと握り締める。


不良さんの家までこの調子なのか、と気まずさに耐えていると気をきかせたのか、執事さんから話しかけてくれた。



「ねえ、名前なんて言うの?」

「....わ、私ですか?」

「うん」



執事さんは前を見て運転してるのでどんな顔してるのかは見れない。ミラーも渡井sからは執事さんの顔は見れない角度。

それよりも、執事さんから名前を聞いてきてくれたなんてビッグニュース!
美和ちゃんに報告せねば。



「田中藍です」

「漢字どう書くの?」

「田中はそのままで、あいは草冠のほうです」



漢字まで聞かれちゃった!

あ、感動して涙が。


そんな私を横目に薄ら笑いしている不良さんに気づかない。



「あの、しつ........お兄さんはなんて言うんですか?」



ついつい執事さんと言いそうになった。

執事さんは赤信号で止まる。



「俺は、新渡戸 健二」

「にとべけんじさん、ですか」

「うん、健二でいいよ。皆そう呼んでるし」



少しだけ振り返って目を合わせてくれた。

それにドキリとする。


健二さんか。よし、覚えた。