「ほらっ、はやくしないと他の女が横取りするぞ!」



強めの口調で言う美和ちゃん。確かに、今にも生徒手帳を拾おうとしている女子が多数。



「藍!!はやく!!」

「はいいい!!」



美和ちゃんに気圧されるがままに、その手帳を拾った。


周囲からは舌打ちが聞こえる。


「あの子図々しくない?」
「思うー」
「てか矢野口くんに話しかけれるの?」
「無理じゃね?あんな地味なんじゃ」
「ウチらなら話しかけられるのにねー」


クスクスと笑い声や不満が飛び交う中、私は生徒手帳と不良さんの後ろ姿を交互に見ながら、どうしようかと焦る。


美和ちゃんのほうを見ると、ガッツポーズをして「藍頑張れ!」と応援してくれている。



待って、これどうすればいいの?
不良さんに渡すんだよね、なんて言って渡せばいいの?



臨機応変なんてできないよおおおお!



1人でわたわたしていたら、不意に不良さんがクルッと振り返った。



その顔に、思わずドキリとしてしまった。

私は執事さん一筋なのにっ!

でもさすがカラク(美形)の王様。
お顔もずば抜けていらっしゃる。

不良さんが、彼女持ちじゃなかったら本気で恋しそうだなあ。



なんて、ぽーっとしているとその綺麗なお顔が歪められた。



「........さっきから視線感じるんだけど、なんか用?」

「わ、私っ!?」

「お前以外に誰がいんの?」



こ、怖いっ!!!



「はぅ、あの。こここ、これ」



睨みだけで人殺せそうです。
少なくとも私は死んじゃいそうです。



おずおずよりも消極的な表現はないのか。

そのくらい私は怯えていた。


熊に食べられそうになっている小鳥になった気分。



「あん?........あ、俺のか?」



生徒手帳を両手で差し出すと、ポッケの中をゴソコソ漁ってないことを確認した。



「いや、悪いな」

「い、いえ........。それじゃあ」



去ろうとしたら、不良さんの手により阻止された。


な、なんですかあー!?