私たちはベンチから立ち上がり、野球部を横目に校庭を横切って校門へ向かった。


足どりはゆっくりと、不良さんが校舎から出てくるのを待ちながら。



不良さんが下駄箱から出てくるのが見え、その後ろを7m範囲を意識しながら美和ちゃんと並んで歩く。



「あ、車見えた」

「え、どこどこ!?」



美和ちゃんが校門を指して派手な赤色に気づかせた。

門のすぐ横に止められている車は先生たちは注意しないのかな、なんて疑問は浮かばなく、執事さんを拝めるという気持ちで胸が弾んだ。



「物好きだねえ。相手は10歳くらい離れてるのに」



ため息混じりに肩を軽く叩いた美和ちゃん。
サイドポニをしている髪が私の首筋あたりにススッと掠って鳥肌が立った。



「何言ってるの、美和ちゃん。愛に年の差なんて関係ないんだよ」

「知ったような口ぶりね」

「だってー。本当のことだもん。まあ私なんてこの年の割りに童顔だし...。そういう対象にならないのは知ってるけど」

「この年て、私らまだ中1よ....。それにあんたが幼いように見えるのは顔じゃなくて髪型よ。ショートやめて髪伸ばせばいいのに」

「えー」



なんて他愛もない会話をしながらも、視線はずっと赤い車。
執事さんは不良さんがいつ来てもいいように、毎日車から降りてスタンバイしてる。


遠めでははっきりと執事さんは見えないが、シルエットでもう分かるようになってきた。



「執事さんまでおよそ11m」

「ひー、緊張してきたよっ」



美和ちゃんが意地悪そうにニヤニヤと私の反応を伺っている。
緊張なんて毎日してるのに。美和ちゃんはしてないってことは、これも愛の力の一部か。



校門に近づく度にドクドクと鼓動が高まるのが分かる。



教室で自己紹介する時の緊張感なんて比にならないくらい。