は、はるかさん?



明らかに女の人の名前だ。


ドクドクと心臓がさっきよりも速く動いている。


好きな人が、自分の知らない人の名前を呼んでいるのを聞いて冷静でいれるほうがすごい。



「ははははは、バイト終わったらすぐ行きますんで」



すぐ............。



「はい、失礼します」



会話終了。


え、えっと。どうしよう。この後どういう顔で合おう。

昨日、また明日ね、みたいなこと言ってたし。
今日行かなかったら次がまた気まずくなりそうだし。


いやいや、向こうは私の心境なんて知らないから、私が独り気まずいだけなんだけど。



ああああ、どういう顔すればいいんだ!



頭を抱えてどうしようどうしようと呪文のように呟いていた。






「あれ?七恵ちゃんじゃん」




ドッキーーーーーン!!



ギギギギと首を横に動かして見てみると、巻野さんが丁度角を曲がったところだった。


え、ええええええ!?


ままままさかこっちに来るとは...!
裏口から入るんじゃないんですか!?


パニックに陥った私に笑いかけて「どうしたの?店入らないの?」と聞いてくれた。



「え、えっと......」

「うん?」



い、今その優しさ辛いです。私の言葉なんて聞かないでください。理由なんて聞かないでえ!


スルーしてください、遮ってくださいよお!


シクシクと心で泣いているにも関わらず、巻野さんは私の言葉を待ってくれている。



「えー...と、あっ、あの!」

「うん?」

「電話邪魔してごめんなさい!」



敢えて質問の答えをせずに謝った。



「いやいやいや、七恵ちゃんがここにいるのすら知らなかったよ。邪魔じゃないよ!」



ブンブンと顔の前で両手を振る巻野さんに、失礼だが気になったことを聞いてみた。



「あのー、さっきの電話のお相手ってもしかして.........彼女さんですか?」



制服のスカートをぎゅっと握りしめる。

ドクンドクンと心臓の音が聞こえそうで怖かった。