「……アイツじゃなくて、俺を見て」
……息が苦しい。
何だかよく分からないけど、上手く呼吸ができない。
瀬戸から目が離せなくて……でも、瀬戸の表情を見ていると自分がおかしくなるようで……
「せ……」
「……ははっ、なんて。
ごめんごめん、忘れて。
こんなん言ってつぐみちゃんに引かれたくないからなー」
そして、瀬戸はまたヘラッと笑う。
だけど目はいつもみたいに笑えていなくて。
何かが胸に溢れてきたような気がして……たまらなくなって、いまだあたしの手首を掴んでいる瀬戸の大きな手を……ギュッと握る。
「え……」
瀬戸が少しだけ目を見張る。
手を握ったまま瀬戸を見上げれば、瀬戸はじっとあたしの目を見つめる。
……やがて、フッと優しく微笑むと……瀬戸は手首から手を離して、今度は掌を包み込む。
「……このまま、抜けちゃおっか」
「え、でも……」
さっきまでリホ達がいた方へ目を向ける
。
少し前までニヤニヤしながらこちらを見ていたのに、すでにそこには誰もいなかった。
「大丈夫だよ」
上から降ってきた声に首を傾げれば、瀬戸は小さく笑いながら答えてくれる。
「ちゃんと事前に許可取っておいたから。
つぐみちゃん、借りるねって」
そう言って瀬戸は無邪気に笑った。

