あたしが頭の中で悩ませていると、水谷君はどこか少し遠くを見て口元を緩めた。
「さすがの嗅覚だな。
もう嗅ぎつけてくるなんて」
「水谷君?」
何を言ってるの?
訳が分からなくて首を傾げる。
「でも、このまま引き下がるのはちょっと悔しいから」
水谷君はあたしの腕を引いて自分の方に引き寄せると、あたしの耳元に口を寄せる。
「もう何もしないから。
だから……ごめん。
あとちょっとだけ好きでいさせて」
耳元でそう囁く水谷君。
え……と思って顔を上げれば、水谷君は眉を下げて苦笑していた。
どこか寂しげな、悲しそうな表情にあたしは何も言えなくなる。
「……あー、すごい睨まれてる」
水谷君はまた遠くを見て呟く。
何があるのか気になったあたしが振り返ろうとしたその時、あたしの頭にふわりと何かが載せられた。
「水谷君?」
水谷君はポン、ポンとそのまま右手であたしの頭を軽く撫でる。
そして頭から手を下ろすと、背を向けて友達がいる方へと戻っていってしまった。
何だったんだろう……。
そう思いながら水谷君に触られた部分を自分の手でなぞっていると、後ろから手首を掴まれた。
ビックリして振り返れば、瀬戸が非常に面白くなさそうな顔をしながらあたしの手を掴んでいた。

