教室に戻る途中、声をかけられる。


「平野」


すぐに誰の声か分かった。

最近よく聞く声だから。


「水谷君……」


振り返ると予想通りの人物が立っていた。

水谷君は足を止めたあたしに近寄ってくる。


「よかった、会えて」

「何かあったの?」

「いや……うん。
ちょっと、平野のこと誘いたくて」


そう言いながら水谷君は照れ臭そうに笑う。


「ああ、いや……断られるのは目に見えてるんだけどさ。
……ごめんね、いつも。
何か、付きまとってるみたいで」

「うん……」

「フラれたはフラれたんだけどさ。
平野に好きな人ができるまでは諦めたくないっていうか。
ははっ……自分勝手なんだけど」


ごめん、ともう一度水谷君は謝る。

その表情は少し寂しそうで。

あぁ、瀬戸もこんな顔してたなって思ってしまった自分にビックリする。

今、瀬戸は関係ないのに。

今目の前にいるのは水谷君なのに。