「変わる?」

「うん。
いつもはつぐみちゃんって呼んでくるのに。
たまに平野になる」

「え、マジ?
あー……でも、そう言われればそうかも。
ちょーっと緊張するとつぐみちゃん、なんて軽々しく呼べないんだよなー」

「緊張?」


あたしが聞き返すと瀬戸はあたしを見てにっこり笑う。


「そうだよ。
俺が真剣な証かな。
だから、俺が呼び方変わった時はそれぐらい真剣なんだって思ってくれていいよ」


真剣……。

確かにそう言われてみれば、平野って呼ぶ時の瀬戸はいつも真剣だった気がする。


「あー、にしても俺って超分かりやすいなー。
……いや、待てよ。
これぐらい分かりやすい方が気持ちが伝わるよな……。
ね、どう思う?つぐみちゃん!」

「ど、どう思うって……」

「ははっ。
その戸惑った顔もサイコー」

「か、からかわないでよ」

「からかってないよ。
つぐみちゃんが面白いのがいけないんだよ」

「面白くないし!」


あたしがそう言うと、瀬戸は目を細めて本当に優しい表情で微笑む。

そんな瀬戸の表情に心が少し乱される。

……昨日もこの顔見たけど。

見て変な気持ちになって逃げちゃったけど。

……いつもテキトーで何考えてるのか分からない瀬戸がこんな顔するなんて……予想外なんだって。


「あー……本当、よかった」


小さな声で瀬戸が呟く。


「よかった?」

「そ。水谷にとられなくてよかったなーって」

「とられるって……」

「俺さ、」


瀬戸がじっとあたしの目を見つめる。

射抜かれそうなほどじっと。


「俺、諦めるつもりないよ」

「え?」

「平野のこと。
諦めるつもりないから」


瀬戸……。