蛇口をひねれば、キュッと良い音がする。

ジャーッと流れる水。


あ、タオル忘れた。


手を水につける前にタオルをカバンの中に入れっぱなしにしていたことを思い出した。

これじゃ顔なんて洗えない。


仕方なくあたしはまた蛇口を捻って水を止める。


このまま教室に戻ろうかな、なんて思ったけどどうにも足が動かない。


……戻りたくない。

……見たくない。


あんな風に結衣に笑いかける瀬戸を許容できるほど、まだあたしの心は整理できていない。


「はぁ……」


早く忘れたい。

そう思えば思うほどあたしの中にいる瀬戸はどんどん大きくなっていく。


もう、こんなの嫌だ。


……そう思った時。


「……つぐみちゃん」


後ろから名前を呼ばれる。

……聞き慣れた心地良い声にあたしの胸が大きく跳ねる。