あたしはゆっくりと顔を上げる。

その顔を見て瀬戸がギョッたしたような表情を見せる。


「えっ、ちょっ……平野……。
……何で泣いてるの?」


自分でも気づかない内に流れていた涙。

あたしもビックリしてるんだから瀬戸が驚くのは当然だ。


「俺、何か変なこと言った?」


目に見えて瀬戸が焦っているのが分かった。

あたしは違うと言わんばかりに首を大きく横に振る。


「……とりあえず、こっちにおいで」


瀬戸があたしの手を優しく握り、そのまま手を引いて歩き出す。

通りすがりの人が何事かとあたし達を振り返り見る。

周りから見たらケンカしたカップルとでも思われているんだろうか。

あたしが泣かされた彼女で……。

そう思うと、何だか瀬戸に申し訳なく感じる。

この人は悪くないんですよ、と周りに言いたいけれど、そんな気力はない。