心の中で叫んだけど、母さんはすっと立つと玄関のドアを開けた。
『あ……かあ、さん』
やっと声を出したのは、母さんが出てって少し経ったとき。
俺は走って家を出た。
『え……なんでだよ』
目の前の光景に、目を疑った。
『あっ……ぅん……』
耳を塞ぎたくなった。
目を閉じたくなった。
けれど、心の中で「これが現実だ」と言う自分がそれを止めた。
信じたくない、信じられない。
だって、嘘だろう……?
あんなに優しかった母さんは、どこかに行ってしまっていた。
『あっ……だめぇ』
目の前にいるのは母さんに似た別の女で、本当の母親は違う所に……
そう繰り返し思うが、これは紛れもなく母さんだった。
優しい、大好きな母さん。
目の前で若い知らない男とキスしてるのは、俺の母親。


