「飛鳥、気を付けな」

「何を?」

「あの女(アマ)…」

「ちょっ、待って待って、落ち着こうか芽以子」

殺し屋の目をして腕組みをしている芽以子の両肩を、正面からガシガシと揺さぶった。

わたしたち2人は今、水穂くんの高校の文化祭に来ている。

正門を入ってすぐの賑わいの中で、わたしはあんまり良くない予感がしていた。



「あんまり来て欲しくない…」

これは、数日前に電話の向こうから聞こえた水穂くんの言葉。

声も何だか少し憂鬱そうで、行事なんかには積極的に取り組まないタイプなのかなと思った。

「つまらないの?」

「いや、そういうわけじゃなくて俺も楽しみではあるんだけど…」

あれ、じゃあどうしてだろう。

質問に対する返答もすごく歯切れが悪くて、疑問だけが残った。



そのことを芽以子に話したら、「よし、じゃあ行こう」と言われた。

「そうだよね、あの高校の文化祭って楽しいし盛り上がるしクオリティも高いし、評判いいんだよね。わたしも行きたいと思ってたんだ」

来るなとは言われてないしいいよね、とわたしは開き直った。

「それに飛鳥の彼氏もこの目で見ておきたい」

「な、何か恥ずかしいな…」

「それに『来て欲しくない』だなんて、隠し事してるみたいじゃん」

そのときの芽以子のニヤッと笑った顔の悪そうなことと言ったら、もう何とも形容しがたかった。