発車を知らせる音楽が鳴る。

わたしたちはホームにいた。

「はい」

彼の「あの」に対しての「はい」、とてもびくびくしている。

反対のホームには、わたしが乗るべき逆方向の電車がゆっくり停車しつつあった。

「…あ、すいません」

どちらかと言うと高めで、落ち着いた声。

「…あぁ、はい」

続かない会話のようで、でも不思議と居心地の悪さは感じていなかった。

「…前の駅で降りるはずだったんですよね」

「そうなんですよ、ははは」

「寝てましたもんね、ははは」

嫌味とも取られかねられない発言ですよ、そりゃ。

「電車、温かくて気持ちいいんでつい…」

表面的な会話の裏で、わたしの顔は徐々にほてりだしていた。

さっき降りた電車は動き始め、わたしが乗る電車は今まさにドアが開こうとしている。

「ずっと前から」

ふと彼が言った。

「は、はい」

返事が震える。

「…その色、似合ってるなーって思ってました」

「へ?」

何でこんなこと言うんだろう。

「インディゴブルー」

すると優しげな声と一緒に、彼の右手がわたしの首元にやってきてマフラーの端に触れた。

と同時に、顔の温度が一気にカーッと上がった。

「え、あの!電車これ乗るんで!」

「あ」

「じゃ!」

今度こそ逃げるようにして電車に飛び乗った。

もうダメだ。

振り返れない。

心臓がこれでもかってほどバクバクしてる。

何だったの、今の。

思わず、涙が出そうになった。

あんな触れられそうな距離、ドキドキするよ。

自分で言うのもなんだけどわたし免疫ないよ。

やめてよ。

よくわからないよ。