次の日、
「なんだか嬉しそうね」
アリシアは鍵盤を弾く少年に声を掛けた。
「今日から本格的に戦術を学ぶんです」
「戦術を?」
「暴力が好きという訳ではありません。そういうものに興味があるだけです」
驚いたアリシアを安心させるためなのか、少年は彼女を見上げて答えた。
少年の演奏は今やプロにも引けを取らない程に上達し、私が教える事はもう無いんじゃないだろうかと戸惑う事がある。
それでもやはり、ただ一つだけは込められていないものがあった。
それはおそらく、表現者において技術よりも重要な要素だ。
少年にそれをどう教えればいいのかアリシアは未だにその答えを出せないでいた。
そんなアリシアの意識を感じ取ったのか、少年は演奏の手を止める。