「フルネームもあるのだよ」

「フルネーム?」

 ずいぶんともったいぶった物言いに片目を眇める。

「ベリル・レジデントという。良い名だろう」

「それは──っ」

「そうでない事を願うよ」

 あの子が本当の悪魔の器とならないために、私がすべき事はなんなのか──この青年になら託せるかもしれない。

 マークが見せた表情にベルハースは何かの予感めいたものを心中に湧き上がらせた。

 無言のまましばらく歩くと、ガラス張りのドアが見えてくる。

 人を感知して音もなくスライドドアが開き、見慣れた背中に近づいた。

「ベリル、元気にしているかね?」

 ベルハースが声を掛け振り向いた少年にマークは息を呑んだ。

 青年はその名前の全てを理解した。