「僕は、戦場を知らない」

 あれは戦場とは言えないけれど、凄惨なことだけは充分に実感できた。

「どうして、あんな」

 たぐり寄せた記憶に悔しさが湧き上がる。

 政府はあの襲撃について、もともと深い捜査をするつもりはなかったのかもしれない。

 事件から数年足らずで捜査続行不可能という決定をくだした。

 機密が公になる事を避けたかったのだろう。

 マークはそれにやるせなさを感じたものの、一人ではどうする事も出来ず諦めるしかなかった。

「ハロルド・キーロスという言語学者を覚えていますか」

 奥歯を噛みしめるマークに、ベリルはやや躊躇いがちに口を開いた。

「ハロルド? えと、君に言語を教えていた人だよね。僕が観察担当になる前に病死した」

「彼が生きていたことは」

「なんだって?」

 施設の医師が死亡を確認し、遺体は教え子たちが引き取ったと聞いていた。