「お邪魔させてもらっても」

「どうぞ。私はこれから買い物だから、ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

 警戒心など微塵も見せず、中に促す妻に半ば呆れて溜め息を吐く。

 この町でわざわざ僕たち夫婦を狙う者がいる訳もない。

 知らない人間なら尚更だ。

 ゆっくりとした足音が近づいてくる。

 この靴音はスニーカーかな?

 それにしては革靴のようにも聞こえる。

 広い家でもないのに妙に落ち着いた足取りなので、マークはついつい目を閉じて思考を巡らせていた。

 重くもなく軽くもないけれど、なんというか貫禄がある。

 まるで──

「っ!?」

 懐かしい影を思い浮かべた瞬間、部屋の入り口に立っている青年の姿に声もなく目を見開いた。