「紡君」
「…ん?」
そんな風に彼等を見送っていた俺に、横から掛かる声。
顔を向けると…
「やっと話しが出来るね。初めまして。隣の席の“遠野舞歌(とおの まいか)”です。よろしくね」
…東京ですら、いや、今までに見たことがないくらい綺麗な満面の笑顔が、俺を出迎えた。
長く艶やかな黒髪を頭の後ろでまとめたポニーテール。
少し吊り目がちで活発そうな大きな瞳が、小さい顔の上で輝いている。
そこにいたのは、美少女と呼んでも何の問題もない女の子だった。
「紡君〜?聞いてる〜?」
「え、ああ…。よろしく…」
“不覚”にも見とれていた俺は、彼女の言葉で我に返る。
駄目だ。人、特に女は、平気で裏切る厄介な存在なんだ。だからどんな女にも心を許しちゃいけない。
そんな風に自分の行動を戒めている時だった。
「うん。よろしく!ねぇ紡君。握手握手」
彼女が笑顔で右手を差し出してきたのは。
