「それにしても災難だったな草部。せっかく良い所に住んでたのによ」
別の男子生徒が同情の視線を向けながらそう言ってくる。
今回、俺が親父の仕事の都合で引っ越して来たのは、とある県のとある村。
辺りを見渡せば、高いビルの代わりに目に入る、パノラマに広がる山々。
人込みも、様々なショップも、遊ぶような所も一切ない。それ以前にコンビニすらない、“超”が付く程のド田舎な村。
都会からド田舎への引越し、そして転校。
そんな俺の境遇は、彼等にしたら災難にしか見えないだろう。
けど…
「そんなことないよ。俺はこっちの方がいいと思う。向こうは人込みだらけだし、煩いし。確かに退屈はしないけど、その分金使うから。それに…」
「それに?」
「…うんん。何でもない」
俺は渋谷よりも、こっちの方が好きだった。
確かに退屈なのかもしれない。けど、こっちの方が落ち着けるし、何より人込みで揉みくちゃにされる生活から解放されたのが嬉しかった。
…それに…ここなら多くの人間と関わらなくて済みそうだから。
