「ねぇねぇ!草部君は、東京のどこに住んでたの!?」
「…渋谷」
「本当!?凄〜い!」
「なあ!渋谷ってどんな所なんだ!?」
「どんな、って言われても…。とりあえず賑やかな所だよ。いい意味でも悪い意味でも」
「は?どういう意味だ?」
SHRが終わり、一時限目が始まる前のわずかな休み時間。
俺の席は、予想通りクラスメート達に囲まれていた。おそらく全員が集まって来ているのだろう。
集まった誰も彼もが目を輝かせながら質問を繰り返し…
そんな彼等の質問に、俺はうんざりした表情を隠しながら答えていた。
「活気はあるけど、人が多過ぎてわずらわしいって意味だよ」
「は?何で?活気があるならいいじゃん?」
質問した男子は、訳がわからない、といった表情を浮かべる。
それはそうだろう。こんな田舎に住んでいたら、人込みを掻き分けて通学、帰宅する“日常”なんか想像も出来ないだろう。
詳しく説明してもいいのだけど、あれは体験しないことには理解出来ない事だし、何より理解するまで説明するのが面倒臭いので、俺は、いろいろとあるんだよ、と苦笑いでごまかした。
