「そうですけど……行きづらいですわ。今回のことは安出さんのためにやったことですが、結局は彼女を騙していたことにもなりますでしょう?
そう考えると、何だか申し訳なくて……。
それに、あたくしは安出さんをかなり傷つけてしまった様でしたし……。彼女にどのように接するべきなのか、あたくしにはわかりませんわ」



姫羅でも、弱音を吐くんだな……――――



いつも強気で、勉強も家事も何でも出来る。


故に“姫”と呼ばれ、皆の注目を浴びていたのが姫羅である。



明らかにいつもと違う様子を見せた姫羅に、王輝はそっと微笑んでから言葉を探した。



「安出泉みたいなバカが、そんなことを気にするとは思えないけどな。
それに、あれだけお人好しな性格なんだ。姫羅が部活に顔を出さないことの方を心配してるんじゃないか?」


「そう、……でしょうか?」


「どうせ、休んでる理由は体調不良なんだろ?」


「はい……」


「だったら早く、体調治してやれよ。安出泉が気の毒だ」



王輝は、もう一度コーヒーを飲んだ。


それに倣って、姫羅もココアのカップを持ち上げる。



「……こちらは甘くて美味しいですわね。それに、温かいですわ」



にっこりと笑った姫羅を、王輝は満足そうに見つめた。



「よくやったよ、姫羅」



王輝の声が、2人だけの空間に温かく響いた。