「あ、あ亜須賀さんっ! 放課後に……あの、話が……」


「わかりましたわ。部屋へ行けば良いのでしょう?」


「はいっ! ありがとうございます!」



安出泉と宇率来女を会わせた翌日の昼休み。


姫羅に話しかけた王姫は、深々と頭を下げてから自分の席に戻った。



「ねぇ、なーんで宝子が姫羅に話し掛けてるわけ? しかも、放課後に部屋って……」



不思議そうに姫羅と王輝を交互に眺めながら、鈴が言った。



「あー……成績上位者に乙戯花氏から話があるらしいんですの。部屋というのも、乙戯花氏のお部屋のことですわ」



適当にそうごまかした姫羅に、「そう」とさらっと答えた鈴は、そのまま何事もなかったかのように話題を変えた。



そんな鈴の様子に、姫羅はほっとした表情を浮かべる。



「もう少々、発言に注意しなければいけませんわね……」



もうすぐ夏がやってくることを知らせるかのような厚い雲は、青い空に堂々と羽を広げている。



姫羅は、蒸し暑さを感じさせる空気が徐々に辺りに満ちてきたことを、しみじみと感じていた。