静かな姫羅の声が、安出の表情を驚きと不安に染める。


微かに震える肩が、その様子を鮮明に表しているようで痛々しい。



「あたくし、水泳部に仮入部してからずっと、思っていましたの。安出先輩が、本調子ではないのではないか……と。
下がっていくタイム。プールから上がった瞬間から始まる、何かに怯えたような態度。たどたどしい話し方。
……どれも、先輩らしくありませんでしたわ」



王輝が安出泉について調べていた時のことである。


たまたま発見したのは、安出泉の大会のビデオ映像だった。



スタート前の強い眼差し。


堂々と泳ぐ姿。


泳ぎ切った後の眩しい笑顔。



それらは、今の彼女にはない。



「あたくしは、先輩に前のように輝いていただきたかった。このようなことで潰れてほしくはなかったのです」


「このようなことって……。そんな簡単に言わないで! わ、私だって、すごく苦しかったんだから!」



安出泉は、息を吸い込むと一気にまくし立てた。



「いきなり透に振られちゃったと思ったら、すぐに新しい彼女作っちゃうし!
それにショックを受けてたら、今度は『水泳しか取り柄のないバカ』とか『彼氏に捨てられても当然』とか、気にしてることがいっぱい書いてある分厚い手紙が机の中に入ってるし……」