『文化祭の出し物で売り上げが1位のクラスには、無条件で全科目の内申点をプラスする』


『純白のリムジンで、町中の野良猫にニボシをプレゼントして回る』


『乙戯花氏のスーツのデザインを募集して、採用された生徒には金一封を与える』



これまでの乙戯花氏の思い付きからもわかるが、彼女の思い付きは他人を巻き込むものばかりである。



もしこれらが周囲の人々に気付かれないように行うことができるような思い付きのみであれば、私も苦労はしなかっただろう。



だがここは、国内でも有名な家庭の生徒が集まる乙戯学園である。


その学園長である乙戯花氏は、ある程度の自由と権力を有している。


大抵の思い付きであれば、あらゆる力を駆使することで実現できてしまう。



そしてこのことは、乙戯花氏自身もよく理解している。



例えそれらの思い付きが“負狸勝兎泣かせ”と呼ばれていたとしても

時には生徒をも苦しめる結果も生んでいたとしても


それは、乙戯花氏の興味の範囲外のことであり、気にもしていないはずだ。



……迷惑なことに。



「かしこまりました」


「よろしくお願いしますね」



笑顔を崩さない乙戯花氏に頭を下げて、静かに部屋を出る。



「今回は、アタリかもしれない……」



人の気配もない静かな廊下には、私の小さな呟きがぼわっと響いていた。