「つまり、安出泉に特におかしな様子はなかったってことか?」


「えぇ、表情が暗いようには見えたのですが、その程度であれば他の方にもよくあることかと思いまして……」


「タイムが上がらないってのは本当なのか?」


「はい。ですから、これはよくあるスランプなのかと……」



姫羅の言葉を聞いて、王輝が考え込むように首を落とす。




姫羅が王姫ルームに着いた時、王輝の部屋のドアに設置してあるランプはすでに青い光を放っていた。



2人の部屋のドアにそれぞれつけられた青とピンクのランプ。


まわりにゴールドの細やかな装飾が施されたそれらは、部屋の中に人がいるかどうかを表していてる。



今はちょうど、部屋を出てきた王輝に、姫羅が安出泉の様子を報告しているところだった。



「しかし、もしかしたら……とも思うのです」


「ん?」


「もしかしたら、今日の安出泉は部活をしていたおかげで精神状態を保っていたのではないでしょうか。
選手や部長としての使命感が、安出泉を支えていたのではないかと」


「なるほど。そうでもないと、俺達に仕事もまわってこないだろうしな……」



小さくつぶやくと、王輝はまた口を開いた。



「勉強はできないし、たくさんの人間に迷惑を掛けているみたいだが、評価できる部分がないわけでもない……か」