「亜須賀! 今日の練習は60分の予定だが、立ってるのもつらいだろう。そこのベンチを使ってくれ!」



放課後。


任御の大きく太い声が、プールに響いた。



「ありがとうございます」



簡潔にそう答えて、姫羅が空いているベンチに座る。



この時期の体験入部者が珍しいからか、そこにいるのが乙戯学園の姫だからか……

通常の練習とは違う空気が、プールサイドに漂っていた。



「さすが乙戯学園のプール、とでも言うべきなのでしょうか」



乙戯学園のプールは室内にある。


部活でしか使われないこの空間を、姫羅はぐるりと見回した。



縦50メートルの長方形を囲むように、白いタイルが壁を覆っている。



長方形の長い辺を辿るように置かれた数個のベンチには、タオルやジャージなど、部員の私物が並んでいた。



天井はガラス張りで、光が目一杯差し込む作りになっている。



夏だろうが冬だろうが、季節を問わずに練習ができる乙戯学園のプールは、その美しさも手伝って、この辺りではとても評判の良いものだった。