「そりゃそうだろう!
安出はうちのエースだからな!いくら亜須賀が相手だと言っても、そう簡単に抜かれちゃ困るさ」



任御は、大きく笑いながら言った。


からっとした大音量が、体育教官室に響く。



「失礼致しました。しかし、最近は安出さんの調子がよろしくないとお聞きしたのですが……」



一旦話し出すと、止まらない性格なのだろう。


任御は「あぁ」と呟くと、苦い顔をしながら口を開いた。



「やっぱり噂になってるのかぁ……。
私生活の方で問題があるってのは間違いないんだろうが、そんなプライベートなことまで教師が勝手に探るわけにもいかないからな」


「大変ですわね」


「まぁな。もうすぐ大会だから何とかしてもらわないと困るんだが……。
最近は変な独り言まで言うようになったしな。何とかしてやらんと」



そこまで言うと、任御は机の上に置いてある書類をとんとん、とそろえた。



「そろそろ授業が始まるから教室に戻れよ。俺も少し準備をしたい」


「わかりました。ありがとうごさいます。
お忙しいところを失礼致しました。ではまた、今日からよろしくお願いします」



姫羅は、任御に静かに頭を下げた。


そんな姫羅を見てにっこりと微笑んでから、任御が机の方に視線を戻す。



姫羅は、くるっと方向を変えると、教室に向かって歩き出した。