私立・乙戯学園[おとぎがくえん]

多くの有名企業からの融資を受けるこの学園を知らない者は、この国にはいない。



白を基調とした、煌びやかな校舎。

部活動の合宿等で自由に使うことのできる、合宿所。

競技ごとに異なる、5つの広いグラウンド。

加えて、何に使うのかもよくわからない、7つの謎のグラウンド。


教室の机も椅子も、すべてが高級品で固められているこの学園には、当たり前のように“特別”な生徒が集まっていた。



だが、特別なのは生徒だけではない。


代々学園長を務める“乙戯家”の人間も、もちろん特別な一族だ。



中でも群を抜いていると噂されているのは、現在の学園長・乙戯花[おとぎはな]氏。



噂の理由の1つは、その優秀な頭脳。

そして、50代とは思えないほどの美しい容姿。



さらに、若い頃から抱えている病……“ファンシー・シンドローム”である。



ファンシー・シンドローム。

いわゆる、“思い付き症候群”



突拍子もない思い付きをしては、それを実行したくて仕方がなくなるという恐ろしい病だ。



発病者は乙戯花氏のみ。


命名したのは、乙戯花氏の思い付き被害を直に浴び続けた乙戯学園の卒業生。



もちろんこの件については、乙戯学園の名とは裏腹に、学園外の者には一切知られていない。



……乙戯花氏以外に、この病に該当する者がいないのだから当然であろう。



故に、この不名誉な病気のことなど露知らず

それが私、教頭であり乙戯花氏の秘書でもある負狸勝兎[ふりかつと]を苦しめているなどとも考えもせず



乙戯花氏は、この日もファンシー・シンドロームぶりを炸裂させたのであった。