「今までにも、安出泉がスランプに陥ったことは何度かあったらしい。その原因は、ほとんどが試合前のストレスだ」


「繊細な方なのですね」


「いや、……そうとは言えない。
彼女はもともとストレスを上手く発散できるタイプらしくてな。いつもなら、お菓子作りとバッティングセンター通いを1週間程続ければ、もとに戻れるらしい」



呆れた表情の王輝を見て、姫羅がぽかんと口を開けた。



資料を作成した私でさえ、少し戸惑いを感じた点ではある。


水泳部のエースのストレス発散方法にしては、少々間抜けな気がしなくもない。



「今回も、いつものようにストレスが原因だろうと、他の部員達がお菓子作りやバッティングに付き合っていたらしい」


「では……」


「だが、安出泉は1ヵ月経った今でもスランプを抜けられないでいるそうだ」



用意されていた資料についてはもう頭に入れているのか、王輝はさらさらと答えた。



「しかも、本人の様子も少しイカれ始めたとか……。
1ヵ月後に大会があるから、早いうちに解決してくれ、だとさ」


「そうですか」



“イカれ始めた”

表現はどうかと思うが、ある意味、的確だとも言えよう。



状況の大きさを感じ取ったのか、姫羅が表情を曇らせた。