「おい。仕事だと」
王姫ルームに足を踏み入れた姫羅に、王輝がさらっと言い放った。
「お仕事……ですか?」
姫羅が、部屋の中央のソファーにどっしりと座る王輝の姿にも慣れてきた、ある日の放課後のことである。
差し出された1枚の写真を受け取って、姫羅は王輝の向かいのソファーに身をゆだねた。
「写真は3-Aの安出泉[やすでいずみ]。その水泳部員の監視が、今回の仕事」
「監視? 初めてのお仕事ですのに、何て趣味の悪い……」
「監視と言っても、目的はそこまで悪趣味じゃない。
ここのところ、安出泉が部活で成績不振に陥ってるらしい。その原因を突き止めて、解消してほしいんだと」
「原因?」
安出泉
女子水泳部のエースとして名高い彼女は、学園内でも有名である。
数々の大会で入賞経験を持つ彼女の名は、朝礼の際に呼ばれることも、新聞に掲載されることもある。
「ですが、スポーツ選手の方がスランプに陥るというのは、よく聞くお話です。安出さんほどの選手なら、それもまた自然なことでしょう?
何故、あたくし達が原因を追究する必要があるのです?」
「安出泉の様子が異常なんだそうだ」
「はい?」
思わず首を傾げた姫羅を見て、短く息を落としてから、王輝が説明を続けた。