壁に微かに残る、
先輩たちの落書きの跡を指で静かになぞる。
ほとんどがくだらないものだったけど、
その文字には力があった。
わかるんだ。
こうして物書きをするとさ。
文字を通じて飛んでくる
その人の思いの強さが、僕にはわかるんだ。
だから僕も書き残そうと思ったんだけど、
できなかった。
僕では、思いが弱すぎる。
僕がペンを走らせていい壁ではなかったんだ。
だから僕はその文字に
手の平をあてて、目を閉じたよ。
顔も知らない先輩の力を借りて、
僕は3年間を過ごしてきた。
嫌なことがあればいつだってここに来たんだ。
部活で上手くいかないときも、
友達と喧嘩した時も、
家庭内で嫌なことがあったとしても、
どんなときでもここに来た。
ここには僕以外の人は誰も来なかったからね。
僕はこの3年間で、
どれだけこの階段を駆け上がったんだろうな。
きっと、
数えたってキリがないんだろうって、そう思うよ。
あのね?
卒業式の日、僕はこっそりこの場所に来たんだ。
いつものように駆け上がった時にね、
僕は小さな変化を見つけた。
46歩のその先に待っているのは、
いつだって決まって空虚な空間だった。
だけどね、その日だけはその姿を見たんだ。
僕のそばにいてくれた、
君たちが迎えてくれる姿をね。