「……………母さん。」



母さんは、やっぱりいた。



ーーーーーあの場所に



母さんは、私に気づいて



「来ると思ってた……。」



そう言って笑った。



「サオ。気づいたの?……」



私は、顔をブンブン縦にふった。



目には、涙がたまっていて
話すと、こぼれてしまいそうだったから。



母さんは、走ってボサボサの私の髪を
手櫛でといたあと
私を抱き締めた……
そして、つぶやいた。




「2008年、5月15日。」



私が、友達と喧嘩して泣いて
帰ってきた日。



「2013年、9月7日。」



母さんが出ていく前の日。
二人で、抱き締めあって泣きながら寝た。




母さんの言葉で、それが合図のように私の涙は
関を切ったように流れた。



泣いていいんだよ。って言ってるみたいで……
次から次へと、涙がこぼれた。



母さんは、私の背中を
ゆっくりとさすった。



「ぅぅっ…、母さん。ゴメンね…。」



私の言葉に手を止める。



「私のっ……、為に……」



「……………」


「……………」



母さんは、またゆっくりと
背中をさすりながら言ったんだ。



「違うよ。サオ。
母さんは、あなたの幸せが私の幸せ。
あなたが苦しいと、母さんも苦しいの…。」



「でも!母さんの幸せは……」



「ねぇ、サオ。
母さんは、幸せなんだよ。
あなたに出合えたから……
母さんは、それだけで充分。」



「……母さん。」



「母さんは、笑顔のサオが好きだな。
ねぇ、サオ。幸せ?」



「うん。

だってこんなに、
母さんに愛されてるもん。」



そう言ったら、急におかしくなって
二人で笑った。



「ねぇ、サオ。
あなたの名前は、私がつけたのよ……
私が好きだった、空の色。」



母さんの顔を見上げる……。



「人はね……
どんな人でも、この空の下で生きてるの。
いい人も、悪い人も
それから、身体の弱い人だって……
人種や性別、目の色だって関係ない。
み~~んな、この空の下で生きてる。
あなたもね………。」



そう言って笑った。



私は、ずっと普通じゃないって
なんとなく分かってた。



でも、普通じゃなくても
生きてていいんだ……



そう思ったら、私の心は晴れた気がした。



母さんの目は、心配しているような
やさしい目をしていた……



ずっと、私をみていたキレイな瞳。




いつも、まっすぐに私をみていた。



「母さん。
私ね。笑えるようになったんだよ。」




「シュン君……でしょ?」



「え……、なんでぇ……?」



「私が、ただサオの話しを聞いてるって
思ってたの?
サオの話しを聞いていて
シュン君が
あなたの事、好きだろうなぁ~って
思ってた。もちろん、サオもね♪」



「……知ってたんだ。」



「サオ。幸せ?」



「……うん。」



「信じて、あげたら?
シュン君の事……。
好きなんでしょ?」



「う~~ん?」



「まだ、わかんないか~。
でもね、サオ。
母さんは、父さんとダメだったけどね……
父さんと一緒になった事、後悔してないのよ。
だって、あなたに会えたんだもの♪」




そう言って母さんは、やさしい目をした。




それから、二人で色んな話しをした。



他の人が聞いたら、暗号みたいな言葉で



二人にしか分からない会話



母さんと私の



秘密の会話。



私と母さんは、普通じゃない。



でも、生きてる。



生きてる事を許されてる。



み~んな、この空の下で



生きてるんだ。



生きる事を許されてるんだ……



私の名前は、その空の色。



母さんの愛がいっぱい詰まった名前。



大事な意味がこもった名前。



母さん。



ありがとう。



素敵な名前をつけてくれて



本当に、ありがとう。