シュンとは、家の前でバイバイして



私は走り出した。



人は何かあった時、走馬灯のように
記憶を思いだすっていうけど



私も思い出したーーー



産まれた時、白い天井が見えた後
不安そうな、うれしそうな母さんの顔。



転んでケガをした私を、あやしてくれた
母さんの言葉。



私が、友達と雰囲気が悪くなった時
わざと、ぶっ飛んだ事を言って
助けてくれてた事。



小さい頃、読み書きを覚えた私を
図書館に連れていって
沢山の本を読ませた事。



読む本が無くなれば、もっと大きな
図書館へと私を、連れていってくれた。



一緒に勉強したから、
分かってるんだと、思ってた。



そうじゃないって事を
私は、ずっと前から知っていた……



気づいていたんだ。



私が、気づかないふりしてたんだ……



母さんは、私と同じなんだ。



全部、忘れられないんだ……。



やっと、分かった。



どうして、母さんが私の事
全部知ってるのか。



理解できるのか。



母さんは昔、言ってたね………。



『タバコを吸うとね……
忘れられるのよ。吸おうとする気持ちの
方が、大きくなるから……』



『お酒を飲むとね……
考える前に、眠れるから……』



私が、困らないように
前もって、教えてくれてたんだ……



コレだけじゃない。
もっと、助けてくれてたんだね……



ピンチになった時、いつもいてくれた。



違う、ピンチになる前には
いつもいたんだ……



母さん……



私、馬鹿だよ。



……ゴメンね。



ねぇ、



母さん。



私、知ってたんだよ。



私を守る為、空手や護身術を習っていた事。



コンビニのお弁当ばっかり食べてるって
知ってから毎日、違う場所の出前を取ってくれてた事。



私の所にいつでも駆けつけられるように
携帯やパソコンで仕事をしている事。



私が行きそうなところを前もって調べて
待ち伏せしてる事。



私が、寂しいって思う頃に呼び出す事。




私の為に、離婚した事。




おばあちゃんが言う言葉を私に
聞かせたくなかったんだよね。



全部、私の為。



母さんは、私の為に
私の心やからだを守る為に……



母さんは、自分の幸せよりも
私が幸せに暮らせるように
してくれていたんだよね。



母さん、会いたいよ。



今すぐ、会いたい……



私は、母さんの家を知らない。



でも分かるんだ……
母さんは絶対にいる。



母さんが『来ちゃダメ。』と言った
あの場所にーーー。



私は、走った。
息が苦しくなっても
足がもつれて転びそうになっても……





母さんが待つ。あの場所へーーー