あれからどうやって帰って
来たのか分からない。



リビングのソファーに座り
どれだけの時間が流れたのだろう……



ただ、テーブルの上の灰皿には
タバコの吸殻が溢れていた。



脳の画像を見たとき
いままでの疑問が、晴れた気がする。



ずっと、心の奧に引っ掛かっていた……



ただ、確証がなかっただけ……



画像を見た私は、気づいた。



左脳の少しの歪みを…。



それが、どういう事なのかを……。




『サバン症候群。』




私の結論は、出た。



小さな頃から、見たもの聞いて事
全て覚えている。



通りすがりの人の声や
道端に落ちていた雑誌のみだし
お店の看板にかかれたイタズラ書きでさえも
その日のいつ、どこで、何があったか
全て、覚えている。



忘れる事が、できなかった……



タバコに手を伸ばし、くわえる。



煙は、部屋の空間に消えていったけど……



私の記憶は、いつまでも消えないーーー




どれだけの時間、ここに座っていただろう
明るかった部屋は、すっかり
闇にのまれ真っ暗な部屋で
ただ、時間だけがすぎた……



目には、涙がたまり。



窓の外の街灯が滲んで、
星が瞬くように見えた……



それでも、涙はこぼれ落ちない。



この日も、
シュンはいつもと変わらずにきた。



インターホンの音が暗闇の中に響くーーー



私は、こぼれ落ちそうな涙を拭きながら
部屋中の電気をつけた。



最後に、玄関の電気をつけ


 

ドアを開けた……




そこにはいつもと変わらず
笑顔のシュンが立っていて、安心した。



シュンは、修了式に出られなかった私に
大量のプリントと通知表をわたす。




それから、くだらない話しを
楽しそうに、私に笑顔で話す。



シュンの笑顔は、私の心を溶かすように
私も自然と笑顔になった……




いつから……




それは分からなかったけど
私は、心の底から笑えるようになってた……




「今日、斎藤がさ~
コンビニの前で、変なオジサンがいた
話しをしてたんだよ~
そのオジサン、ショートパンツに、
ピンクのタンクトップ着て
それなのに、頭はパンチにサングラス。
おまけに、あみタイツ履いてたんだって~
見た目ヤクザみたいなのによ~
ウケルだろ?」




そう楽しそうに話す、シュンに私は




「その話し。
6月20日に、2組の保田君が
廊下で話してたよ~。」




シュンは、びっくりした顔をした。



そして、言った。



「サオって、スゲーよな?」



「ん?なんで?」



「いやっ、普通さ~
なんとなく、誰々が言ってた。って言うじゃん
でも、サオはさ~
いつ、どこで、だれがって
いつも、話すよな?
全部、覚えてんの?」



「うん。覚えてる…。」



「だから、スゲーんだよ!」



「そうなの?
う~ん…。よくわかんないけど…
母さんと、話すときは
何月の何日に、何したかって
話し通じるけど?」



「じゃあ、サオのお母さんも
スゲーって事?サオの記憶力は
お母さん、譲りなんだね。」



「お母さん……。譲り?」



私は、シュンの言葉にハッとした……




その後、どんな話しをしたのか
覚えてない……



シュンの話しに上の空で
作り笑いをして、曖昧な返事を
していたと思う。



「サオ?
どうかしたの?……」




首を傾げて私を覗きこむシュンに
母さんの顔が、だぶって見えた……



「シュン!
私、今日用事があるんだった。
ゴメンだけど、かえって!」



驚いた顔をシュンがしてたけど、
カギとケータイを持って
シュンを引っ張り出し部屋を出たーーー。