7月12日。



カウンセングの日。



「吉野です。
この学校のスクールカウンセラーを
やらせてもらってます。」



吉野は、爽やかに笑った。



「サオさん、
今日から、一週『3日。』」



私は、吉野の言葉にかぶせた。



えっ…とした顔をする吉野に



「3日たてば分かるよ……。」



なにがなんだか分からないって
表情をした吉野。



「え~~っと、
とりあえず今日は
君と少し話しをしようと
思うんだけど……」



「何が聞きたいの?」



「ま~~、いろいろと…
そうだな……まずは好きな物ある?」



「タバコ。」



「…………。」



「ビール。」



「…………」



「何でもいいんでしょ?」



「いや~~っ、
あの、それはそうだけどね……
君は未成年だから…
酒とタバコは良くないよ。」



そう言って吉野は、未成年の
飲酒と喫煙がどれだけ体に悪いかを
話し初めた……



聞き飽きた私は



「酒とタバコが、体に悪い事なんて
とっくに知ってる。
それを教える為に仕事してるの?
あんたの仕事は何?」



と、言ってやった。



「あ~~、そうだね……。
じゃあ、今度はキライな物は?」



その言葉に少し考えた……。



「……人。……か、な?」



少しだけ
弱気になった……



「……人?
どうして、人がキライなのかな?」



「喋るから。」



「どうして、喋るとキライなのかな?」



「知らないうちに、傷つく事を
言うでしょ?」



「君は、傷ついた事があるの?」



「生きてれば、
誰でも傷つく事は、あると思うけど…?」



「そうだね。
誰でも一度は、あるね。
でも、人はそれを乗り越えて
生きてくんじゃないかな?」



「乗り越えるって、どうやって?」



「人間って、嫌な事は
忘れるように、できているんだよ。
ま~~、
しばらくは覚えているんだけど…
新しい情報が入ってくると
古い情報は、忘れていくように
出来ているんだよ。
そうやって、嫌な事は
だんだんと薄れていく……みたいな?」



「忘れなかったら?」



「たまに、忘れられないような
経験をする人も、いるけど…
君は、そんな経験をした事があるの?
たとえば……イジメとか……。」



「無いよ。
あたし結構、人気物らしいし……
けど……、忘れられないの…」



「何が?」



「覚えた事。
いままで覚えた全部。」



「それは、勉強とか?」



「それもそうだけど……
見たこととか、聞いたことも。」



「じゃあ、
一番古い記憶は?」



「白い天井。」



「何処の?」



「知らない。」



「………………」



少し考えた吉野は、話しを変えた。



「えっと~~
じゃあ、最近笑った事ある?」




「あるよ。馬鹿にしてるの?」



「いやっ、そうじゃなくて…
心から楽しいって思った事ある?」



「シュンと話してる時かな……?」



「シュンって、彼氏?」



「まあ。」



「彼と話してる時、
君は、笑えるんだね。
どんな事を話してるの?」



「くだらない事。学校であった事とか……」



「ふ~ん。
彼には、心を許しているんだね。」



「そうじゃない…」



「…………どういう事?」



「罪悪感……」



「罪悪感?彼にたいして?」



私は、頷く。



「どうして罪悪感を感じるの?」



「好きじゃないのに、告白したから……」



「君は、彼の前では
笑えるんだよね?それなのに
罪悪感?本当にそれだけなのかな?」



「分からない……」



私は、吉野の言葉に
気づいたのかもしれない
自分の本当の気持ちに……。



「じゃあ、彼以外には?
他に誰かいる?心を許せるような人。」



「母さん……。」



「お母さん?お母さんの事好きなの?」



「うん……」



「お母さんの、どんなところが好き?」



「私の事、知ってるから……」



「知ってるって?
お母さんにも言ってない事ぐらい
一つや二つあるでしょ?」



「でも……
母さんは、私の事……
知ってるよ………。」



私は今日、吉野の言葉で
二つの事に気づいたんだ。



一つは、シュンの事。
そして、母さんの事……。



でも、私はその事に
自然と蓋をしていたんだ。




本当は、分かってる。



でも、知らないふりをしていた。




吉野は、腕をくみ片方の手で顎をさわりながら
私をじっと見ていた。



そんな吉野に、私は質問した。



「ねぇ、
吉野は自分が人間以外だったら
何だと、思う?」



「えっ?僕が人間以外だったら?」



「うん。何だと思うの?」



「う~ん、そうだなぁ」



しばらく考えた吉野は



「薬草かなぁ?」



そう言った。



「何で?」



「僕は、カウンセラーでしょ。
昔の人は、薬草を飲んだりして
心を落ち着かせていたんだ。
だから、僕は薬草だと思ったんだけど……。」



「ふ~ん、そう。」


吉野は、私の言葉を聞いて
すぐに同じように聞いてきた。



「君は?自分は何だと思う?」



「私?私は、ラフレシア。」



「ラフレシア?」



「知らない?ジャングルに咲く花。」



「ジャングルに?」



「そう。世界最大の花って言われてる。」



「ふ~ん、何でその花だと思うの?」



「ラフレシアってね、花が咲く時
すごい匂いを放つの、その匂いに
たくさんハエが寄ってきて、そのハエに
受粉して貰うの。でもね、
ジャングルの奥地に、ひっそりと咲くんだけど
とっても有名でね、静か~に咲いてるのに
み~んな、物珍しそうに見に来るんだよ。
あたしみたいでしょっ?」



吉野は、目だけを大きくして私を見る。



「吉野も、ハエの仲間だよ!
だって、私が珍しい人間だから
ここにいるんでしょ?」



「いや、僕は……」



「私が普通の子なら、吉野は
仕事ないじゃん。良かったね。
仕事もらえて!」



それから、吉野は何かを言いたそうに
何度もしたけど……
私と目が合うと躊躇して
何も言わなかった。


そんな吉野に私は


「もう、帰るね。」


そう言って、部屋を出た。