ある春の日の夕方、1人の女の子がとある住宅街に引っ越してきた。彼女の名前は愛。いたって普通の女の子だ。
「やっと着いた…」
愛は静かにつぶやいた。目の前にたたずむ大きな家。愛の夢見る家に果てしなく近いそれは、夕日をうけてオレンジ色に反射している。愛はさっそくドアを開けた。
「お母さん、ここ、やっぱすごくいい!」
先に中へ入っている親に明るく話しかける愛。その姿は小さな女の子にも見える。
「じゃあさっそく挨拶いってくる!」
挨拶は、愛の仕事だった。愛は元気よくスキップしながら隣の家へと挨拶を始めた。
「こんにちは~、えっと、引っ越してきた者です…」
あまりにも静かな雰囲気に少し緊張感を持ちつつも、あくまでも明るく振る舞おうとした。
ガチャッ
ドアが開いた。
「あっ、、、、」
愛は言葉を失った。なぜなら、目の前には見たこともないイケメンがたっていたから。
「こんにちは。」
名前のしらないイケメンは、優しい笑顔と、温かな声で挨拶をした。
(どうしよう、、、!この人かっこよすぎるよ!声も顔もなにもかもタイプなんですけど!!!!)
愛は目をキラキラ輝かせながら、近所に挨拶として渡すお菓子を、ピクピクと震える手でつかみとり、差し出した。
「どっ、どうぞ!!!あたし、愛っていいます。」
「俺は亮輔。よろしくな!」
にかっと笑う、整った顔立ちのイケメン。その亮輔という男に、愛は釘付けだった。
愛は緩む口を必死で隠して他の家をまわった。どんな家をたずねても、頭のなかは亮輔のことでいっぱいだった。