アル兄さんの、きょとんとした顔を見ていれば


「マリアは、ファーンボローしか利用した事が無かったな」


「うん」


「イギリスの他の空港は入国審査、荷物の受け取り、税関の手続きで1時間近くも掛かるし、特にヒースローの入国審査はかなり厳しいんだよ」


マーク兄さんが再び詳しく説明してくれる。


「その点、ファーンボロー空港はプライベートジェット専用の空港だから特殊なんだ。チャーター利用者を除いては、殆どパスポート審査で終わるから手続きも早い。そのパスポート審査も機内で済ませられるから人混みに煩わされる事も無いんだ。わかった?」


「うん……」


今まで、手続きも全てマーク兄さんにやってもらっていたから私はジェットに乗るだけだったけど……イギリスに入国するのって、大変なんだ。

そんな事を考えていれば、リビングにある大時計をちらりと見たマーク兄さんに頭を撫でられる。


「さぁ、もう真夜中だ。マリアも、そろそろ寝なさい」


つられて時計を見れば、既に深夜2時を過ぎていて。


「本当だ……じゃあ、寝るね。おやすみなさい」


「「おやすみ」」


立ち上がって、兄さん達に挨拶をしながら部屋の扉を開けると


「温かくして寝るんだぞ」


背後から聞こえてきたマーク兄さんの声に頷いて、ゆっくりと扉を閉める。

寝ろと言われても、具合の悪い魁さんが気になって仕方がない私は、自分の部屋とは反対方向に向かって歩き出していた。