心の底からホッとする、あの腕の温もりと愛おしそうに私の名前を呼ぶ優しい声。
それが恋しくなれば、目頭が熱くなってくる。
───此処で泣いちゃダメ……
涙が零れないように瞬きをしようと、瞼を薄らと開けた時。
「マリア様…っ……!!」
周りの空気が動いたのと、ランスロットさんの緊迫した声が耳に届いたのは同時だった。
滲んだ視界のまま振り返れば
「……!?」
私を守っていた二人のボディーガードは雪の積もる地面に倒れ込み、声を上げたランスロットさんは屈強な男に羽交い絞めにされていた。
そして、私の目の前には……
「お前のせいでっ!!!」
目を吊り上げて、怒りに身を震わせるお婆様の姿。
「…っ……!!」
次の瞬間、辺りに響いた乾いた音は思ったよりも遠くで聞こえた気がした。
叩かれた頬が熱を帯び、ジンジンとした痛みが後から追いかけてくる。
避けようと思ったけれど、お婆様から向けられた恐ろしいほどの怒りに体が硬直して動く事が出来なかった。

