間違いなく、私のインフルエンザがうつったであろう魁さん。

つい先日まで同じインフルエンザに罹っていた私としては、その辛さが容易に想像出来るから心配になる。


「マリア?」 


足を止めた私に気づいたマーク兄さんが振り返って私を呼ぶ。


「……はい」


それに返事をして、一度、瞼を閉じる。


───魁さんが、早く良くなりますように……


心の中で神様にお願いをしてゆっくりと瞼を持ち上げれば、どこまでも澄み切った青い空が視界いっぱいに広がっていた。


「魁さん……」


小さく呟いた言葉は、白い吐息と共に空に静かに舞い上がっていく……


「どうした? さぁ、乗って。体が冷え切ってしまうよ」


なかなか動かない私の傍まで来たマーク兄さんが、後部座席のドアを開けて待っているリムジンへと促す。


「うん……」


そっと背中を押されてリムジンに乗り込むと、隣に座ったマーク兄さん。

音もなく動き出したリムジンの窓から外へと視線を向けたけれど……

私の目に、流れる景色は映っていなかった───