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あれから葵君は帰り、響君と二人で食事をしてリビングでテレビを見ていた。
「そろそろ、点滴が終わる時間だな」
自分の腕時計で、時間を確認した響君がポツリと呟いた。
「あれ、もうそんな時間?」
ソファーから立ち上がった響君に声を掛ければ
「あぁ。ついでに様子を見て検温してくるか……」
伸びをしながら答えてくる。
「じゃあ、俺はお茶の用意してから部屋に持って行くよ」
「了~解」
手をヒラヒラさせながら出て行った響君を見送ってから、ティーセットの用意されたカウンターへと足を向けた。
今日はダージリンにしようと決めて、お茶菓子と一緒に用意をしていれば……
バタンッ!! と、勢いよく開いた扉に驚いて
「わっ!!」
クッキーを乗せた皿を落としてしまった。
“やっちゃった”と、思いながら振り返ってみれば……
そこにいたのはたった今、魁君の様子を見に部屋を出て行ったばかりの響君が立っていて
「びっ、びっくりした~!! 脅かさないでよ、響君!」
扉を開けた張本人に文句を言えば
「……いねぇ……」
「え?」
「魁が、部屋にいねぇんだよ!」
顔面蒼白の響君が、有り得ない事を口にした。

