「マリア、こっちだよ」


上機嫌なマーク兄さんにエスコートされて、その地に足を着ければ、雪まじりの木枯らしが頬に当たる。


「寒いから、これをしていなさい」


あまりの寒さにぶるりと震えた私に気づいたマーク兄さんが、自分のマフラーを外して私の首に巻きつけてくれた。


「……ありがとう」


「いや。……やっぱり、マリアにはこの色が一番似合うな」


お礼を言う私に優しく微笑んだマーク兄さんは、肩に掛かった髪を長い指に絡めると、梳きながら目を細める。


機内で黒髪おさげの変装を解いて、制服を着替えた私。

ハニーブラウンの髪に、エメラルドグリーンの瞳。


今は、本来の『マリア・ウィンザー』に戻っていた。

もう一度、黒髪に染め直そうか迷ったけれど……

元の姿に戻った私を見つめる魁さんが、いつも愛おしそうに目を細めるから未だに染めていない。


「はぁ……」


前を歩くマーク兄さんに気づかれないように小さく溜め息を吐けば、白い吐息が視界を遮る。


───戻って来ちゃった……


もうすぐクリスマスホリデーに入るイギリスは、前日に降った雪が積もり、辺り一面が銀世界に覆われていた。