「わかるわけないよ、彼の気持ちなんて。」


「え?」


「どうせ他人の気持ちなんてわかるわけない。でもどう想ってるか気になって、探ろうとするから面白いじゃない?それって恋の始まりだよね。」


「はあ・・・。」


なに語ってるんだろう?


どういう意味?


この人はなにを考えてるんだろう?


「とりあえず、ここにいなよ。きっと明日には笑えるからさ。ね?」


子犬みたいな潤んだ瞳で見つめられると、あたしにできることは少ない。


「はい・・・。」


まるで、真琴と同じような瞳が見つめてくるから。


・・・悲しくなるだけだよ。


なだめられるようにイスに座らされると、急に名乗り始めた。


「俺のことは綾って呼んで?」


「アヤ?女の子みたい。」


「いいの。君は?」


「あたしは陽菜子。」


「じゃあヒナだね。」


“ヒナ”


その響きはあたしの心をかき乱した。


真琴があたしを呼ぶのと同じ響きだから。


「うん・・・」


「それで、お願いがあるんだけど。」


「ん?」


「俺と付き合ってよ。」