「あのね、あたしの家は病院でね、昔からその病院を継ぐんだって教えられてきたの。」
この話をするとき、どうしてこうも震えてしまうんだろう?
手を強く握り締めた。
「でも、あたしは頭が悪くて、医者にはなれないって。他の道に進んだほうがいいですって、そう高校の先生に言われたときの・・・あの失望された両親の瞳が忘れられない。」
・・・そう。
あたしは、両親の期待に答えられなかった、残念な子。
「その日の夜、リビングで話してるの聞いちゃったんだ。“陽菜子にはがっかりさせられっぱなしね。もうちょっとまともな子だったら良かったのに”って・・・。」
「ヒナ・・・」
「それから4歳下の弟にばっかり。あたしには見向きもしなくなった。それで、逆に捨ててやったの、あんな親。“あたしはあなた達の期待には答えられないから、家を出ます”って、宣言して。・・・バカでしょ、あたし。」
「そんなこと、ないよ。」
顔を上げると、アヤが真剣な顔をしてあたしを見つめてた。
「ヒナは何も悪くない。ヒナがどうしようが、自由だよ。ヒナの人生なんだから。」
「でも、あたしは何も」
「ヒナはヒナの好きなことをすればいいんだよ。だから、こうやって俺と一緒にいる。ヒナはお父さんやお母さんの人形じゃないんだから。」
アヤの言葉は、どうしてこうも胸にささるんだろう?
核心を突かれるような、そんな言葉を並べて微笑む。
「ヒナは、ひとりじゃないよ。俺がいる。」
アヤはあたしの隣に座って、手を握って、優しく微笑んだ。
「ヒナのことは、俺が大切にする。幸せにするから。」
まるで幼い頃に夢みてた、プロポーズの言葉みたいで、あたしは無意識のうちに微笑み返していた。


