「結花ー、次移動教室だよー」
親友の美衣が言う。


私は高校一年生。

A高校1年の生活科。

高校が楽しいわけでもなく、ただただ毎日を過ごしていた。

それはある9月の出来事だった。
いつもと変わらない廊下だった。
夏が終わりでもまだ温かい風が吹き込んでいる廊下。

「音楽室って遠いよね」

美衣が言う。私たちの学科は女の子ばかりで家庭科を中心に勉強をする40人の小さな学科。
学年で唯一クラス替えのない特別な学科。


「めんどくさいね」
私はとくにやりたいことがあるわけでもなく、ただ家から近いというだけでこの高校、そしてこの学科を選んだため、毎日毎日めんどくさかった。



そんなつまらない私の毎日にあなたが現れた。

階段である先生とすれ違った。
背が高くて整った顔立ち。手には教科書やいろんな本の入った青いかご。



一瞬で私は恋をした。
「ねー今の先生めちゃくちゃかっこいい」

「えっ?どこが?結花趣味悪いー」


でも私はその先生が何の教科担当なのか名前すら知らない。

「今日ねめちゃくちゃカッコいい人に出会っちゃた。先生なんだけど」
その日のうちにクラスで大騒ぎした。

「いつも青いかご持って歩いてる先生でしょ?」


一緒に移動していた真由美が言う。
「知っているの?」

「よくすれ違うよ」
「いいな~」

「ねーねー結花の言っていた先生これ?1-6の先生だって」

友達の歩美が写真を見せてくれた。

うーん、なんか違うような。
「もっとかっこよかったし」

写真の中の先生は全然違った。

「絶対あの人なのに」近くにいたみんなに言われた。




そして私は自分の目で確かめたくて先生のクラスに行った。



でも先生の姿はなかった。

近くにいた6組の子に先生の名前を聞い
た。



先生の名前

”仲村宗佑”

化学担当だった。