「そしたらお父さんのスーツのポケットから大量の紙が落ちてきた。
拾って確かめたら全部女の人の名刺だったの。
裏切られた気持ちになったわ、だからお父さんが起きてから問い詰めたの。
そしたら何て言ったと思う?・・・・・『お前なんかこれっぽちも愛してねぇよ!』だって。
笑っちゃうわよね、こっちはずっと一途に帰ってくるのを待ってたのにね」




軽く話してるように見えるけど、お母さんはその時とても苦しんだはずだ。
私は姿すら覚えていない父親に軽蔑を覚える。




「それでお父さんにもはっきり告げてから離婚したってわけ。
麻美にはお父さんがそんなことをしたってこと、言いたくなかったから黙ってたんだけど」




「・・・・・うん」




「だけどお母さんはお父さんと結婚したことを後悔していないの。
だって、そのおかげで清(シン)と会えたんだから。
あ、清は伊藤先生ね。
・・・・・麻美には幸せになって欲しいけど、お母さんは麻美が自分で選択した道を後悔しないでほしい。
もしそれがいくら辛い道でもお母さんも一緒に頑張るから、ね?」




首を傾けながら、ね、というお母さんはとてもとても綺麗だった。
私はたまらずお母さんに抱きつき、ありがとうありがとうと連呼する。




「お母さん、私、絶対に後悔しない。
たまに辛くなって後ろを振り返るかもしれないけど、後悔だけはしないって誓う」




そう言って私はお母さんから離れて口だけを動かした。
お母さん、ありがとう、大好きだよ。